CUJJ#5/'90.2.18 発売号掲載
GNU について考えていきたいと思う。GNU とは何か、何を目指すのか、どんな考えが根底にあるのか、技術的なメリットはどこにあるのか、使用条件は何か、などを最近の話題を織り込みながらつづっていきたい。
オープンでコピー・フリーな OS を含む統合化システムの開発を行なっている。GNU プロジェクトで開発している (あるいは採用している) ソフトウェアを GNU ソフトウェアと呼んでおり、後述する copyleft という使用条件を付けて配布している。◆1
Free Software Foundation, Inc. (FSF) は GNU プロジェクトを支援するグループである。Richard M. Stallman(ログイン名から rms とも呼ばれる) は FSF の社長兼 GNU プロジェクト・リーダ兼ボランティアである。詳細は「GNU ダイジェスト」の中の「Free Software Foundation について」を参照のこと。GNU や FSF と Richard とは切っても切り離せない関係がある。
社長がボランティア ? 毎年今ごろの季節 (ボストンでは極寒の 1~2 月) になると、Richard はたいてい暖かいカリフォルニアへ出稼ぎに行って、1 年間の生活費を稼いでくるようである。今までの例では、カリフォルニア州立大学バークリー校へプログラミングやコンサルタントを依頼されて行くわけであるが、実に彼らしい特徴でもって作業をしてくる。
自分の作業 (プログラムや書き物) は全てフリーにすることを作業条件としている (つまり次の章で説明する copyleft を付けている)。
彼の作業単価は
時給 US$200.00
分給 US$5.00
である、とサービス名簿に書いてある。サービス名簿に関しても「GNU ダイジェスト」の中の「Free Software Foundation について」を参照のこと。◆2
これを高いとみるか、安いとみるか ?
この実態をある新聞 (by Simson L. Garfinkle, The Christian Science Monitor,"Top Programmer makes mark with `free' software", Science/Health, Sunday Jun 4, 1989, page 4D) では次のように述べている。
rms は米国で最も優れたプログラマで 1 年のうち 2ヵ月働いて、その蓄えで残り 10ヵ月はボランティア活動 (GNU プロジェクト) を行なっている。FSF では rms の書いたプログラムを含むテープを 150 ドルで配布している。つまり時給 200 ドルのプログラマの書いたものを入手していることになる。◆3
さて、自分もコピー・フリーにしてよいプログラムを書いたが、やはり PDS にはしたくない。どうもほかのメーカの商売の道具に無断で使用されるのはいやだという人には、GNU で使用している copyleft がお勧めである。◆4,5
GNU では、通常の著作権告知と GNU 一般公有使用許諾 (GNU General Public License) を併せて copyleft と言っている。これはユーザが GNU の「自由」を持ち、またユーザはその「自由」を誰からも奪うことができない、といった主張である。「自由」とは、ソース・プログラムの公開によって、プログラミングの研究やマシンへの移植など、技術革新にもなろうという社会的な訴えである。FSF から配布される全ての GNU ソース・プログラムやマニュアルには、この copyleft が入っているので、詳細はそれらを参照していただきたい。
ここでは、その使い方について紹介する。
FSF では、フリーにしたいプログラムを copyleft で保護するように人々に勧めている。この使用許諾がそのプログラムに適用されている旨を 2~3 行ほど、「ソース・プログラム」に (ドキュメントがあれば、出力されたものとテキスト・ファイルにも) 記述するだけで済む。記述する場所は、著作権告知の次の行が安全であろう。さもなければ、その行に copyleft 適用の趣旨の文面がどこに記述されているかを示しておく。そして、プログラムの再配布や修正の法的許可を与えること。
以下に copyleft に入っているサンプル・ファイルを示す。◆6
〈プログラムの作成者名およびプログラムの概要〉
1 行で、プログラマ名とどのようなプログラムであるかを簡単に述べる。
Copyright (C) 19yy〈作成者名〉
本プログラムはフリー・ソフトウェアである。Free Software Foundation が発行する GNU 一般公有使用許諾のバージョン 1 か、あるいはそれ以後のバージョンに則って再配布および修正することができる。
本プログラムは便利なものになるようにと願って配布しているが、完全に無保証である。特定の目的のためにこれを商品化したり修正したものに対して保証はない。詳細は GNU 一般公有使用許諾を参照のこと。
ユーザは本プログラムと併せて GNU 一般公有使用許諾の写しを受け取っているはずである。ない場合は、
Free Software Foundation, Inc. 675 Mass Ave, Cambridge MA, 02139 U.S.A
まで手紙を書いて写しを請求して欲しい。
書面には、電子メールや書信による連絡方法についての情報も添えて欲しい 。
〈プログラム名〉〈バージョン番号〉, Copyright (C) 19yy〈作成者名〉
〈プログラム名〉は完全に無保証である。詳細は show w と入力すれば得られる。これはフリー・ソフトウェアであり、ある条件のもとで再配布してもよい。詳細は show c と入力すれば得られる。
この show w や show c というコマンドを使用すれば、一般公有使用承諾の
適切な部分を示すようにする。もちろん、他の呼び方でも構わない。例えば、
マウスのクリックやメニュー項目の選択などである。プログラマとして従業
員や生徒である場合には、必要に応じて、プログラムに対して「著作権放棄
」の署名もする場合があるだろう。その例を次に示す。
〈会社名〉は、ここに〈作成者名〉が作成した〈プログラム名〉プログラム (アセンブルする時にパスを作るコンパイラに命令するプログラムのこと) に全ての著作権に関する利害を放棄する。
〈会社の署名〉, 19yy 年 mm 月 nn 日
GNU をめぐる話題をこのコーナーで取り上げる。
1 月末に USENIX コンファレンスが開催され、その中で GNU の夕べの集い (GNU BOF と呼ばれている) が開催される。それと時を同じくして、GNU の小冊子「GNU's Bulletin」とその日本語版「GNU ダイジェスト」がコンファレンス会場で同時に配布される。
1 月初めに X Window System Version 11 Release 4 がリリースされた。それによると Motorola の 68000 系の CPU を使っているシステムでは、ぜひ GNU C コンパイラを使うようにと奨励してあったようである。
技術的な話題は取り上げなかったが、次回から少しずつ取り上げていく予定である。USENIX コンファレンスの GNU の夕べの集いについても報告したい。
GNU という言葉は `GNU's Not Unix!' の頭文字をとった名前で、「ぐぬー」と発音する。動物に「ヌー」というのがいるが、こちらはそれに G を発音するのだというのを FSF の人から聞いた。
特有の単語やフレーズを考えるときに、意味と発音を組み合わせたり、pun(語呂合わせ) を用いることが多い。例えば GNU の場合を見てみると、
GNU World=new world gNU support company=new support company Thank GNU=thank you
などがある。前述の GNU の発音のところで触れた「ぐぬー」の「ぬー」と「おにゅー」の「にゅー」や「ゅー」が掛けられている。GNU の世界がつまり新世界になるという意味であったり、GNU をサポートするという新しいタイプの会社ができたという暗示でもある。本記事の表題や副題
Think GNU=Think GNU/you A Happy GNU Year=A Happy GNU/new year
は、それぞれ、本誌を通じて皆で GNU を考えよう、GNU と皆にとって良い年でありますように、という願いを込めてひねり出したものである。
というわけで、この「GNU 単語帖」は、GNU に関する新しい用語や単語 (new word) について解説したお茶うけ欄である。また、新語や造語ばかりでなく、発行されたばかりの「GNU's Bulletin」の日本語版「GNU ダイジェスト」(No.8、1990 年 1 月号) によく出現する用語もフォローしていきたい。
限定されたユーザ (登録者) 間の連絡板や Q&A に使われるので、内容的にも煮詰まってはいないが、非常に技術的に深い深い情報を早く得られる利点がある。
メール・グループの管理をしている人がいる。そのグループに加入する場合は、例えば gnu@prep.ai.mit.edu というメール・グループなら gnu-request@prep.ai.mit.edu に加入したい旨のメールをすると登録してもらえる。何らかの情報提供や質問をしたい場合は、gnu@prep.ai.mit.edu にメールすればよい。
電子掲示板と比較するとプライベートな色彩が濃い。GNU に関するメール・グループは「GNU ダイジェスト」の付録にもあるように 30 個ほどある。
だいたいの大きめのコマンドに 2 つのメール・グループが用意されている。1 つは概略的な情報、もう 1 つはバグ関係のメール・グループである。
GNU のメール・グループはもともとプライベートに作られたものであるが、興味を抱く人が多くなったので、現在は電子掲示板にも転送されている。◆7
メーリング・リストの使用例として、GNU には fsf-hq という名の電子メール・グループがある (ただし、このグループはオープンではないので、誰でもが加入できるわけではない)。この hq は headquarters の略で、FSF 本部員間での連絡や討議経路となっている。
「Think GNU」の第 1 回である。この欄では、連載当時の本文とそれをまとめた現在との差分をまとめる。状況や方針が変化している点を補足している。
rms のコンサルタント料の記述があるが、本文のものは連載当時の料金であり、現在 (1992 年) は、
時給 US$250.00
分給 US$6.00
である。
この配布料金は 1990 年当時のもので、1992 年では、205~230 ドルになっている。
copyleft のことを当時、GNU 一般公的使用許諾 (GNU General Public License、GPL と略すこともある) と書いていた。その後、GPL のバージョン 1.0 の翻訳を行ない、弁護士のチェックを受け、さらに rms の承認を得たものでは「一般公有使用許諾書」としたので最近ではこの名称を用いている。
PDS は Public Domain Software の略であり、著作権を放棄して、使用や配布に一切の制限を与えていないソフトウェアのことである。著作権を放棄していない PDS もある。ちなみに、GNU でいうところのフリー・ソフトウェアのフリーは、freedom(自由) の free から来ており、無料という意味ではない。PDS でもない。配布する人にも使う人にも共有の自由を保証するものである。
copyleft の最新の適用方法は付録を参照のこと。
現在のメーリング・リストは、本書の付録で確認のこと。